[ICH Q5D] バイオ医薬/既存の生産株から新しい生産株への変更は可能か? 同等性/同質性 (comparability) の確認が必要 – 特性解析だけでは済まない! /事例も含めて解説 [2025/04/17]

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◆ 2. 実際の比較性評価の記載構成(3.2.P.5.6例)

以下は**3.2.P.5.6「Manufacturing Process Comparability Studies」**に記載される代表的構成例です:

❶ 概要(Executive Summary)

  • 生産株変更の背景と目的(例:生産性向上、安全性向上)
  • 変更の概要(旧株→新株の由来、培養条件等)
  • 比較戦略(Q5Eに準拠したアプローチ)

❷ 品質比較データ(Q6B観点)

項目評価指標試験法判定結果
構造アミノ酸配列、糖鎖パターンLC-MS、CE-SDS一致または許容範囲内
純度凝集体、分解物、HCPSEC, HPLC, ELISA同等と判断
活性リガンド結合、細胞活性SPR, cell-based assay変化なし
安定性応力試験での変化傾向Stress/Accelerated test同様な分解プロファイル

→ これらの結果を表形式や図解でまとめて記載し、「変更による品質の違いは臨床的に意味がない」と論証します。


◆ 3. 3.2.R.2における比較性評価レポート(詳細な補足資料)

ここには、以下のような**比較性評価の全文(Q5Eベース)**がまとめられます:

構成例:

  1. 目的・変更点の定義
  2. 品質属性(CQA)の同定と影響分析
  3. 各比較試験の詳細
  4. 分析法バリデーション(同一条件の比較性)
  5. 応力試験と安定性差異の評価
  6. 非臨床・臨床評価が必要かの判断
  7. リスクアセスメントの結論と根拠

📌 多くの場合、ここでは「全体を通じて安全性・有効性に影響しないと科学的に示せるか?」という観点で統合的議論が展開されます。


◆ 4. 補足:比較性評価の提出時の注意

観点留意点
一貫性の証明最低3ロット以上で比較(旧ロット vs 新ロット)
分析法の整合性同一条件・同一装置で試験。変更がある場合は再バリデーションが必要
当局との事前相談PMDA/FDA/EMAいずれもScientific Adviceの取得が推奨される
結果の表現単なる統計的同一性でなく、「臨床的に意味のある差異がない」ことを科学的に示す

◆ まとめ

観点内容
CTDモジュール3の記載場所主に3.2.P.5.6および3.2.R.2に比較性評価を記載
Q5E/Q6Bに基づく記述内容変更概要、品質試験の比較、安定性試験、影響評価など
文書構成の特徴表・グラフ・図解を多用し、定量的かつ総合的に議論する


ICH Q5D: レジメ

Q5Dを参照する場合の具体例.

  • 細胞株の作り直しによる同等性/同質性 (comparability)の確認.

Q5D 生物薬品製造用細胞基材の由来,調製及び特性解析 (2000)

DERIVATION AND CHARACTERISATION OF CELL SUBSTRATES USED FOR PRODUCTION OF BIOTECHNOLOGICAL / BIOLOGICAL PRODUCTS

関連ガイドライン

もしも,細胞株を作り直す場合,当該Q5Dの他に以下のQ5A, Q5Bも参照する必要がある.また,細胞株の変更と共に製造工程の変更がある場合, Q5C, Q5Eも参照する必要がある.試験法はQ6Bを参照する必要がある.

  1. Q5A, ウイルス安全性 : 「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」(2000)(ICH Q5Aガイドライン:平成12年2月22日付 医薬審第329号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)を参考に実施する.
  2. Q5B, 塩基配列及びアミノ酸配列 : 「組換えDNA技術を応用したタンパク質生産に用いる細胞中の遺伝子発現構成体の分析」(1998)(ICH Q5Bガイドライン:平成10年1月6日付 医薬審第3号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)
  3. Q5C, 安定性 : 「生物薬品 (バイオテクノロジー応用製品/生物起源由来製品) の安定性試験」(1998)
  4. Q5E, 製造工程の同等性/同質性 : 「生物薬品 (バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品) の製造工程の変更に伴う同等性/同質性評価」(2005)

目的 [1.1] Objective

以下が適切に実施されること

(1) ヒト,動物及び微生物由来の細胞株の調製 (セルバンクとなる候補となる細胞株)

(2) セルバンクの調製と特性解析

意義 [1.2] Rationale

従来から,細胞由来の生物起源由来医薬品の品質について考慮すべきポイントは以下の項目が挙げられてきた.

  • 外来性因子の汚染の可能性
  • 生産細胞の性質

遺伝子組換え医薬品においては,以下のポイントが挙げられる.

  • 細胞基材中に含まれる遺伝子発現構成体に関する問題

以上のように医薬品の品質や安全性に影響を与える可能性があるため適切な管理が必要であることが広く認識されている.

適用対象 [1.3] Scope

(1) セル・バンク・システムを持つ全ての細胞基材 (cell substate)

(2) in vivo/ex vivoで投与 (診断目的は対象外)

参考 : 医療用語 「in vitro ⇔ in vivo 」は常識。 じゃあ「ex …

(3) 全ての後生動物由来 (metazoan, 多細胞動物の特徴を持つ生物)

(4) 連続継代性細胞株,寿命を有する正常二倍体細胞

(5) 微生物 (細菌,真菌,酵母),その他の単細胞

(6) 遺伝子治療用薬品/ワクチン製造目的セル・バンク

(7) 初代培養細胞(動物組織・器官)にて得られるウイルス・ワクチンなどはバンク化されていないものでも適用可能な項目.

(8) 除外 : 代謝産物 (抗生物質,アミノ酸,炭水化物,その他低分子),初代培養細胞由来生産物

留意事項 [2] GUIDELINES

1. 細胞基材の起源,由来及び履歴 [2.1]

Source, History and Generation of the Cell Substrate

得られる医薬品の品質及び安全性を保障するための総合評価として役立つ [2.1.1] はじめに Introduction.

  • 細胞基材(親株,生産株)の履歴とその妥当性
  • 研究開発段階での事象(入念な記録)
  • 履歴及びその調製 (以下の情報が欠如していることだけで承認されないことはないが,他の特性解析などの情報による補完が必要となる)

細胞の起源,由来及び履歴 [2.1.2] Origin, Source and History of Cells

  • 細胞基材のもととなる細胞がどこで樹立されたか
  • どこから供給されたか (研究機関,細胞保存供給機関)
  • 適切な科学文献の情報
  • 直接的に供与された細胞であることが望ましい(文献情報でもよい)

ヒト細胞株の場合,ドナー情報として

  • 出生地,
  • 育成地,年齢,
  • 性別,
  • 健康状態 (病原体情報),
  • 組織・器官)

ヒト正常二倍体線維芽細胞の場合,

  • ドナー年齢は細胞株のvitro細胞寿命に影響するので可能な範囲で情報を入手.

動物細胞株の場合,

  • 細胞腫,
  • 系統,
  • 繁殖条件,
  • 組織または器官,
  • 出生地や生育地,
  • 年齢及び性別,
  • 病原体に関する試験結果
  • 健康状態

微生物の場合

  • 種及び系統
  • 遺伝型,
  • 表現型などの特性.
  • 病原性,
  • 毒素産生性,
  • その他バイオハザード情報
  • 株樹立からの継代数

培養細胞の場合,

  • 培養履歴 (細胞分離時の培養,in vitro培養,細胞株樹立時培養など物理的,科学的又は生物学的手法,遺伝子導入操作も含む)
  • 細胞の同定,特性,
  • 内因性及び外来性因子に関する試験結果

後生動物由来の連続継代性細胞株の場合,

  • 培養期間
  • 細胞数倍加レベル(PDL),
  • 一定の希釈倍率と継代数 or 培養日数.

正常二倍体細胞株の場合,

  • 全ての期間での性格なPDL

細胞基材の調製 [2.1.3] Generation of the Cell Substrate

細胞基材とはMCBの前段階から以降を指す.

  • 感染性物質への暴露の可能性に関する捜査過程の詳細考察,
  • 培地成分 (血清,酵素,加水分解物),
  • ヒト又は動物由来成分の暴露 (生体成分の起源,調整及び管理方法,各種試験結果,品質保証情報,文献での引用でもよい)
  • 以上の情報補は,当該医薬品のリスク/ベネフィットの評価の一部となる
  • 親細胞株は,十分に特性解析されているものを選択することが望ましい
  • 操作 (細胞融合,形質導入,セレクション,コロニーピックアップ,遺伝子増幅,培養環境,培地馴化)
  • 組換えDNA技術応用医薬品では細胞基材は形質転換細胞でありクローニングされたものである(MCB前)
  • 非組換え医薬品及び非組換えワクチンでは,細胞基材はMCB前の細胞
  • ハイブリドーマ由来の医薬品のでは,細胞基材は,細胞融合後のハイブリドーマ細胞株

2. 細胞のバンク化 [2.2] Cell Banking

セル・バンク・システム[2.2.1]

Cell Banking System

  • 利点は,製造毎ロットで特定解析されたセル・バンクを使用できること.
  • 二段階方式 : MCB/WCB.
  • 予想使用頻度,予想更新頻度,適格性の評価.
  • クローニングは均一性の確保,特性解析試験(製造目的にかなえばクローニングは必要ない)
  • 培養条件の違いがある (MCB/WCB, CB/実製造)
  • 重要なことは : 特性解析されたCBによって一定品質の医薬品が得られること.
  • 微生物発現系では,形質転換を改めて行って新しいCBの調製を行う場合がある.この場合,綿密に試験したHost CellとPlasmid Bankの使用,得られた形質転換体の試験の実施での同等な結果が前提となる.かられたCBは,MCBとみなせる.なぜなら,これら細菌や酵母の形質転換は,後生動物細胞の形質転換とは異なり,高い再現性を有するためである.

セル・バンク化の手法 [2.2.2] Cell Banking Procedure

細胞をバンク化する過程で予防策を講じる.

  • 汚染されていない細胞基材の使用
  • 合理的な保証 (細胞基材の信頼性をバンク化の過程で予防策として講じる)
  • バンク・システムの種類
  • バンクのサイズ (*2)
  • 容器 (*2)
  • 密封方法 (参照*2)
  • 凍結保護剤 (*2)
  • 培地 (*2)
  • 凍結条件 (*2)
  • 保存条件 (*2)
  • 細胞生存率 (MCBの更新確認)
  • in vitro細胞齢 (MCBの解凍時)
  • 方法の記載 : 微生物汚染の回避,同一室内での他の細胞との交差汚染の回避,容器のトレーサビリティ,その際の文書化システム.保存容器のラベルの耐久性(ラベリングシステム).
  • *2: バンク化手法 : 細胞の拡大培養,複数培養容器で得られた細胞のプールの実施.バイアル充填(無菌)と凍結および保管(気相,液相),凍結融解後の一定の細胞生存率の保持と医薬品製そ造品質の向上性.
  • 災害対応 (火災,停電,人的過失)のためのセルバンクのマルチサイト保管,炭酸ガス自動補充システム,予備電源,自家発電システム.

3. セル・バンク・システムの特性解析及び品詞評価に際しての一般的留意事項 [2.3]

General Principles of Characterization and Testing of Cell Banks

  • MCBでは,特性解析試験 Tests of Identity,純度試験 Tests of Purity は1回実施すべきである.
  • WCBでは,一部の特性解析試験,純度試験は1回実施すべきである.
  • ウイルス安全性は,「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品のウイルス安全性評価」(ICH Q5Aガイドライン:平成12年2月22日付 医薬審第329号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)を参考に実施する.
  • 培養期間中の細胞の安定性試験 Cell Substrate Stability は1回実施すべきである.

参照ガイドラインと解析

  • 遺伝子組換え体細胞の場合は、「組換えDNA技術を応用したタンパク質生産に用いる細胞中の遺伝子発現構成体の分析」(ICH Q5Bガイドライン:平成10年1月6日付 医薬審第3号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知)を、塩基配列及びアミノ酸配列解析のガイダンスとして参照すること。
  • 前述のガイドラインは,非組換え体の細胞で配列が分かっている場合は同方法により塩基配列を解析することは有用である.
  • 微生物ワクチン抗原やハイブリドーマの抗体ではこの解析は必ずしも必要ではない.
  • しかるべき理由がある場合は,MCBにかえてWCBで特性解析,品質評価を実施しても良い.

以下の試験について,各細胞に適切な項目を選択して実施する.試験の詳細と結果を申請資料に記載する.

(1) 特性解析試験

  • 一般的にMCBについて実施され,WCBでは一部が実施される.
  • 適切な試験法を選択して実施する.
  • 表現型,遺伝型が考えられる.
  • 全ての試験を実施しする必要はない.

後生動物細胞の特性解析

  • 形態解析
  • アイソザイム解析
  • バンディング細胞遺伝子学的手法
  • 種特異的抗血清
  • 細胞腫特定マーカー(染色体のバンディング解析)
  • DNA解析(ゲノムの多型パターン (制限酵素断片長,繰り返し配列数,染色体中字ヌクレオチド繰返)
  • 目的タンパク質発現試験.

微生物細胞の特性解析

  • 選択培地中での増殖解析
  • ファージ型分析
  • プラスミド・バンク(ICH Q5B)
  • 目的タンパク質発現確認)

(2) 純度試験

  • 外来性の微生物因子・細胞の混入試験 (試薬・抗生物質の影響を考慮)

後生動物細胞の純度試験

  • 細菌や真菌の否定試験: 全容器の1%,2本以上,pH.Eur, JP, USPに記載の微生物限度試験法)
  • マイコプラズマ (寒天平板培地と液体培地による培養および指標細胞培養法,Ph.Eur, JP, “Points to Consider in the Characterization of Cell Lines Used to Produce Biologicals” (FDA, CBER, 1993): 1 vial使用で十分)
  • ウイルス (汚染可能の正のある幅広い種類のウイルス検出を計画,ICH Q5Aを参考,WHO文書:生物薬品生産のための胴部細胞の使用に関する文書 2.3.4項)
  • 他の細胞株汚染 (交差汚染の機会のリスクレベルで試験の選択,同一室内での開放状態,目的タンパク質が意図通りに得られるか)

微生物細胞の純度試験

  • 外来微生物や細胞の混入試験
  • バンク化した細胞の特性の考慮,科学文献,起源,培養法と材料から想定汚染,バンク化の室内で存在する他の生物の考慮,増殖可能/不可能培地の使用による観察:バンク化工程中での観察

(3) 細胞基材の安定性

  • 意図した目的を果たすか
  • 恒常的な生産
  • 保存期間中の生産能力の保持
  • 最小継代培養細胞,パイロットスケール又は実製造条件細胞齢,又はそれ以上の細胞齢でのデータは1回は必要
  • 目的タンパク質が恒常的に生産されるか: 遺伝子又は得られたタンパク質の解析(生産性のみではない
  • CB保存条件下での安定性 (治験薬製造過程でデータは得られ申請資料に記載する.CB安定性モニタリング計画の提出,承認書には製造率確認試験の間隔を記載,生存率に著名な変化が無ければ追加試験は必要ない)

(4) 核型分析及び像腫瘍性試験

  • 遺伝学解析は単独での試験は必要ないが,特性解析試験および純度試験では適切であろう.像腫瘍性は既知論文で示せれば必要ない
  • 生細胞存在の可能性がある生ウイルスワクチンの場合,この試験を行うこと.
  • 詳細に解析・評価されているMRC-5細胞やWI-38細胞では,これら試験は必要ない.ただし,新たに調製されたもので二倍体であこと,予定の細胞寿命であることを一度確認すること.

試験方法は”WHO Requirements for the Use of Animal Cells as in vitro Substrates for the Production of Biologicals” (in WHO Expert Commitee on Bilogical Standardization 47th Report, WHO Technical Report Series No.878,1998).